長崎家庭裁判所諫早出張所 昭和61年(家)103号 審判 1987年9月01日
申立人 233号事件相手方 田中芳子
相手方 233号事件申立人 原田晃夫
相手方 山田明子 外3名
被相続人 上川ツネ
主文
1 被相続人上川ツネの遺産を次のとおり分割する。
(1) 申立人田中芳子は、別紙遺産目録I不動産aの土地、II預貯金のうち393万0255円、IIIの家財道具類一式及びIV同人の既取得にかかる現金13万1880円を取得する。
(2) 相手方原田晃夫は別紙遺産目録I不動産cの土地とdの家屋及びII預貯金のうち676万8135円を取得する。
(3) 両事件相手方山田明子は別紙遺産目録I不動産bの土地及びII預貯金のうち335万4135円を取得する。
(4) 両事件相手方林隆一、同林健二、同林町子はそれぞれ別紙遺産目録II預貯金のうち323万6711円あてを取得する。
2 相手方原田晃夫の寄与分を金300万円と定める。
3 両事件に関する手続費用中、鑑定人○○○○に支給した鑑定費用24万3000円は、申立人田中芳子、相手方原田晃夫、両事件相手方山田明子が各6万0750円あて、両事件相手方林隆一、同林健二、同林町子が各2万0250円あてを負担することとし、その余の手続費用は各自の負担とする。
理由
第一申立
申立人田中芳子(以下、単に申立人という)は、被相続人上川ツネの遺産について適正な分割を求め、相手方原田晃夫(以下、単に相手方原田という)は、被相続人上川ツネの遺産についての寄与分を定めることを求めた。
第二当裁判所の判断
1 両事件記録を総合して認められる事実及び当裁判所の判断は次のとおりである。
(1) 相続人及び法定相続分
被相続人は、昭和57年5月29日死亡し、相続が開始した。その相続人は、子である申立人、相手方原田、両事件相手方山田明子(以下、単に相手方山田という)と亡上川義一の代襲相続人である孫の両事件相手方林隆一、同林健二、同林町子(以下、単に相手方林隆一、同林健二、同林町子という)の6名である。そして、各相続人の法定相続分は、申立人、相手方原田及び相手方山田各4分の1、相手方林隆一同林健二及び同林町子各12分の1宛である。また、被相続人の遺言は存在しない。
(2) 遺産の範囲
被相続人の遺産は、次のとおりである。
<1> 不動産
a 長崎市○○町×××番宅地119m2559万8000円
(○○○○に月額5050円で賃貸中)
b 同所×××番宅地148.76m2635万6000円
(○○○○に月額4500円で賃貸中)
c 同所×××番宅地148.76m2544万2000円
(○○○○に月額4300円で賃貸中)
d 八代市○○町字○○××××番地所在木造セメント瓦葺平家建居宅1棟50.85m250万0000円
計1789万6000円
なお、不動産の評価について、相手方原田代理人は、鑑定における25パーセントの市場性補正は不当である旨主張するが、その理由も主張せずまた証拠も提出していないので、これを採用し難い。また、申立人は相続税課税標準価格をもつて不動産の価格とすべきであると主張しているが、時価鑑定評価の存する以上、鑑定価格によるべきである。ただし、本鑑定は、昭和58年6月1日時点で行われたものであり、既に4年を経過しているので、これを財団法人日本不動産研究所の昭和30年3月末を100とする六大都市を除く市街地価格指数(住宅地)をもつて鑑定価格を時点修正し、便宜現在価格を算出した。また、dの家屋については収去判決が確定しており、将来取毀予定であり、相手方原田は50万円なら収去なしうるとしているのでこれによることとする。
<2> 現金、預貯金合計2414万1471円(昭和62年7月22日現在)
a 現金100万円が相続開始時点において存したが、これは葬儀費用として既に費消されて現存しない。
b ○○○○銀行(株)○○支店貸付信託2000万円
同行 普通預金(口座番号×××××及び×××××)合計57万6752円
同行 別段預金(貸付信託収益分)222万2350円
c (株)○○銀行○○○○支店普通預金(口座番号×××)56万7134円
d (株)○○銀行○○支店普通預金(口座番号××××××)250円
(株)○○銀行○○支店〃(口座番号××××)77万4985円
(但し、これのみ同年7月24日現在)
<3> 家財道具類一式 5万円
被相続人の費用をもつて昭和56年当時53万3500円で購入したものと認められるので、現価はその約10分の1程度とみるのが相当であるから、価格5万円と認める。
<4> 申立人が被相続人と同居中得た収入のうち遺産の範囲に含めるべきもの13万1880円
申立人は、昭和56年7月から被相続人死亡時点まで同居したが、その間申立人が取得した金員は合計304万8000円である。
内訳
a 現金 50万円
b 貯金 73万8000円
同 40万円
c 原田からの送金昭和56年8月14日 6万円
同年 8月20日 6万円
同 59年9月16日 10万円
以後6万円×8 48万円
d 原爆手当 31万円
e 遺族年金 40万円
相手方原田代理人は、遺族年金は46万円であり、預金は上記2口以外にもあるはずであると主張するが、これを認めるに足る証拠は存在しない。従つて、申立人の自認するところによる。
次に、その間に申立人が費消した金員について、申立人は、支出内訳として
a 引越費用(○○○-○○) 23万2620円
b 乗車運賃(○○○-○○) 6万円
c 家賃(被相続人同居) 25万円
d 引越費用(○○-○○) 3万円
e 被相続人の生活費 70万円
f ○○生命保険料 11万円
g 家財道具 53万3500円
h 介護料 100万円
であると主張しているが、aないしeは被相続人の負担に帰せしむべき必要経費、f、gは被相続人が自己費消したものと認められ、またhについては、被相続人と申立人間で明確な契約があつたとまでは認められないが、被相続人は申立人が被相続人を介助するため、仕事を辞めていることから、退職しなければ得られたであろう収入分を申立人に贈与する意思があつたことは推認される。申立人は、昭和55年度の税込年収が199万6109円であつたから、これから税金8万2800円社会保険料12万5463円を控除し、さらに職業経費を差引いても少なくとも月額10万円の収入は得られたものと認められる。そうすると、その10月分に当る100万円は、申立人主張のとおり被相続人が申立人に対する謝礼の趣旨でこれを負担したものとするのが相当である。
以上のとおりであるから申立人の主張する受領額と支出合計291万6120円との間には13万1880円の差が存する。これについては申立人から何らの説明もなされていないので、申立人が既に取得している現金として被相続人の遺産に含ましめるべきものとするのが相当である。
<5> 地代収入
前記○○銀行○○支店の口座に振込まれており、昭和62年7月末日現在滯納はない。これについては、既に預貯金項目の中に含めて計上しているので、ここでは別途計上しない。
<6> 葬儀費用
現実に支出した葬儀費用の詳細については、全く資料の提出がなく、不明である。しかし、相手方原田が保管していた預金の中から現金化して100万円を申立人に渡しており、申立人がこれをもつてまかなつたことが認められる。葬儀費用は、遺産の中からまかなうのが相当であるから、前記<2>現金預貯金項目中の現金100万円をもつてまかなわれたものとして、別途計上しないこととする。
以上の次第であるから、分割の対象となる遺産は、別紙遺産目録記載のとおりとなる。もつとも、相続財産たる不動産についての未払分の公租公課が昭和62年7月末日までに合計30万3750円(内訳長崎市固定資産税・督促・延滯金を含む12万3040円、八代市固定資産税・督促・延滯金を含む18万0710円)あり、また、相手方山田が立替支払つた長崎市固定資産税合計7万5060円あるので、これらを控除した残額を分割することとする。
(3) 特別受益
申立人は、相手方原田に昭和36年4月3日ころ、土地購入のため30万円の贈与があると主張するが、相手方原田はこれを否定している。相手方原田は、申立人には、婚姻時50万円の婚資の贈与があると主張するが、申立人は否定している。相手方山田は、昭和45~6年ころ、同人及び相手方原田ともども20万円申立人30万円の贈与を受けている旨主張するが、申立人はこれを否定している。また、申立人及び相手方山田は、相手方林隆一、同林健二、同林町子の父である亡上川義一が50万円の債務の肩代りを受けた旨主張している。しかし、いずれについても他にこれを認めるに足る証拠はなく、特別受益の存在は認められない。(また、仮りに、これら贈与が存したとしても、生計の資本といつた性質の贈与であるか否か不明であるうえ、各関係者は、それぞれ同程度の贈与を受けているということになるから、これらを特別受益として考慮する必要はない。)
(4) 寄与分
相手方原田は、その費用で、長崎市○○○××番地所在の被相続人の自宅を改造し、母屋を間貸し、小屋を自用できるようにした。その後本家建物の老朽化にともない建物を解体更地とするため借家人の立退き交渉や建物の解体・滅失登記手続をなした。また、被相続人の売却依頼に基づき、該土地の買手を探し、昭和54年2月10日○○○○○工業(株)との間で坪25万円で売買契約を締結した。その際公簿面積は462m2であつたが、隣接地権者との交渉を重ね、実測面積527.72m2を確保し、売買面積を65.72m2増加させた。その後、その売却代金のうち2000万円を信託預金にし、また余剰金は預金・定期預金にするなどして管理し、流動資産の減少防止、有利な運用に努めた。さらに、被相続人と昭和54年5月11日から同56年7月25日まで約2年2月同居して、その介助身辺の世話をした。以上の様な資産の増加に貢献した額は500万円世話・扶養の額は260万円計760万円を相手方原田の特別寄与として主張するとしている。
ところで、被相続人の介助の点については、被相続人に対する世話は日常生活(食事の仕度・洗濯等)の範囲内のもので、それ以上の特別の介護費用を要する種類のものではなく、肉身としての当然の互助の範囲を出るものではなく、相続財産の維持に貢献したとまでみることはできない。
次に、土地売却にあたつての寄与の主張については、土地の実測面積が公簿面積より広かつたことは、土地自体の有していた経済的価値が顕現したものにすぎず、このこと自体を相手方原田の寄与とみることはできない。しかし、土地売却にあたり借家人の立退交渉、家屋の取壊し、滅失登記手続、売買契約の締結等に努力したとの事実は認められるので、売却価格の増加に対する寄与はあつたものとみることができる。そして、その程度は、不動産仲介人の手数料基準をも考慮し、300万円と認めるのが相当である。
従つて、相手方原田の寄与分を300万円と定める。
(5) 具体的相続分
以上認定のとおり、被相続人の遺産総額4221万9351円あるが、これから未払分の公租公課及び相手方山田立替分の公租公課を控除し、さらに相手方原田の寄与分を控除すると、分割すべき遺産の額は、3884万0541円となる。これを前記各人の法定相続分の割合により分割すると、申立人、相手方原田、相手方山田が各々971万0135円、相手方林隆一、同林健二、同林町子が各323万6711円となる。
そこで、各人の具体的相続分は、
申立人及び相手方山田各971万0135円
相手方原田1271万0135円
相手方林隆一、同林健二、同林町子各323万6711円となる。
(6) 遺産の分割
具体的分割案については、申立人から預貯金を希望するとの主張がなされている以外希望は出されていない。そこで、不動産3筆については、被相続人の子である申立人、相手方原田及び相手方山田に各1筆ずつ取得させ、さらに家屋については相手方原田が、家財道具類一式は申立人が現にそれぞれ管理しているので、各当事者に各取得させたうえ、現金・預貯金を分割するのが相当である。
そうすると、
<1> 申立人宅地a(559万8000円)+家財道具類一式(5万円)+既取得現金(13万1880円)+預貯金393万0255円
<2> 相手方原田宅地c(544万2000円)+家屋(50万円)+預貯金676万8135円
<3> 相手方山田宅地b(635万6000円)+預貯金335万4135円
<4> 相手方林隆一、同林健二、同林町子各預貯金323万6711円
宛、取得することになる。
第三結語
以上のとおりであるから、被相続人の遺産については主文第1項記載のとおり分割取得させることとし、手続費用については、鑑定人○○○○に支給した24万3000円は各相続人の法定相続分の割合に応じて分担させ、その他の費用については各自の負担とするのが相当である。よつて、主文のとおり審判する。
(家事審判官 小田八重子)
別紙遺産目録<省略>